CROSS COUNTRY SKIERのこんな運用

趨勢が押し戻しがたいものであることは、安売りに固執するが消費者の求める品揃えなどには執着しなかったDがビジネスモデルとして立ち行かなくなったことからも分かる。 また、(パーソナル・メディアの代表である)インターネット企業による(マスメディアの象徴たる)地上波テレビ買収劇が繰り返されるのも、それゆえなのだろう。

ともあれ構造改革には、市場競争については価格競争のことと狭く考える傾向がある。 それは消費者行動が「売り手市場マスメディア」領域の外へと変化したことを理解していないからだろう。
経済・社会の「構造」に改革は逐次必要である。 けれどもそれには条件がある。
人々が「構造」に対して抱くイメージないし理解が、大幅に裏切られるものであってはならない、ということだ。 人間は将来を予想して現在の行動を決める動物である。
しかし将来の経済・社会のあり方は原理的に無限の可能性があり、そのなかで自分がいかに合理的に振る舞うべきかを決めるには、最低限、将来の「構造」のあり方を知っておく、もしくは知っていると思い込んでいる必要がある。 そのためには、改革の速度はあまり急であってはならない。
将来の「構造」がどのようなものであるのか思い描けないと、自分の現在の行動も決定できなくなってしまうからだ。 現在の行動が確定されなければ、決定は先送りされるために、家計も企業も安全資産を保有し、消費や投資を差し控えるだろう。

たとえば「終身雇用」がルールであるなら、我々はある企業のなかだけで昇進や給与の動向に注目し、そこから自分の生涯所得を計算しようとするだろう。 したがって、将来の所得を想定するときにも、会社をめぐる制度を前提して計算がなされたはずである。
ところが90年代末に、日本型経済システムの「構造」は、ビッグバン戦略にもとづいて一気に解体されていった。 制度には相互補完性があるため、漸次的な改革は不可能とみなされたからだ。
けれどもリストラが常態となるならば、再就職の可能性やその場合の給与がどのような水準であるのかを知らなければ生涯所得は計算できない。 それゆえに将来に対する期待が悪化したのである。
不確実性の広がりに由来する期待の悪化が消費や投資の減退を招いたという説は、最近では新古典派経済学の立場からSも唱えている。 将来が不確実になったから、各経済主体が予備的に貯蓄を増やすという行動をとるようになり、その結果として需要減になったというわけである。
こうした説は、表面上は私の説明と似ているが、決定的に違う点がある。 それは「不確実性」やそれに備えるために貯蓄をするということの解釈にかんしてである。
消費が落ち込んだのは、貯蓄が増えたことの裏返しである。 ではなぜ貯蓄が増えたのか。
それは将来が不確実に思えたため、予備的に貯蓄したのだという。 従来のK的な公共投資や政府支出による景気対策は、個々の経済主体が将来にいかに備えるのかは考慮していない。
投資については将来の不確実性を考察するという画期的な業績を残したJ・MKだが、消費についてはなぜか現在所得の関数だとしている。 公共部門の支出が景気対策に乗数効果を持つという理屈が出てくるのもそれゆえだ。
構造改革の急激な進展が、経済成長どころか1997年から03年初頭にかけて深刻な不況をもたらしたと私が考えるのは、それゆえである。 きっかけは97年の消費税率引き上げから社会保険の負担増で、そこから消費意欲がめっきり減退し、金融危機にも陥った。
O政権のもといったんは公共投資増で危機を乗り越えたかに見えたが、K首相の登場とともに遂行された急速な構造改革で再び需要は冷え込んだ。 人々が将来に向けて不確実性を感じるようになり、期待を悪化させた。

それに対して新古典派経済学は、I・Fの時間選好の理論にも表れているように、消費は現在所得だけでなく利子の関数でもあるとみなした。 というのも、将来の消費も現在の消費とともに人の経済生活の満足を高め、しかし現在から将来にいたる所得の流れが全体として一定の予算をなしているからである。
老後に豊かでありたい人は現在貯金し、逆に若いうちに消費しておきたい人は貯金などしない。 また、生涯にわたる予算は、利子率によっても決まってくる。
現在の利子率が高ければ貯蓄によって予算は増えるし、低ければ減るからだ。 そして人は、将来と現在のいずれで消費したいかという欲求(時間選好)と通時的な予算を勘案して、いつどれだけ消費するか、貯蓄するかを決める。
この理屈は、現在から未来にかけての所得や利子率、そして欲求のあり方がどれだけの水準か分かっている場合のものである。 最近では、将来を考えて人々が行動するという新古典派の理論が、「動学的マクロ経済学」という名で復活している。
そして将来の「不確実」が拡大するときに貯蓄が増えるのも、同じ理屈で説明できるとしている。 Sの解説によれば、家計が貯蓄する理由は直感的に説明されうる。
将来において消費額が確実に100万円である場合と2分の1ずつの確率で50万円、150万円である場合とでは、消費額の期待値は1×100万円と0.5×50万円+0.5×150万円という具合に、100万円で同じだけれども、そこから得られる満足は後者の方が大きい、という。 そこでSは、ラッキー/アンラッキーの落差が大きければ、人々は予備的貯蓄を大きくして将来に備えると述べ、そうした理論を現実に結びつけるために、不確実性を所得リスクや雇用リスクなどさまざまに読み替えた場合の計測結果を紹介している。
近年急発展しているとされる「不確実性の動学的マクロ経済学」とは、こうした分野である。 しかし、こうした理論には、1990年代後半からの消費の落ち込みを説明するうえでは根本的な欠陥がある。
というのもそれは、あくまで「何がどれだけの確率で生起するかが分かっている」ことを前提としており、「不確実性」を、事前に決まっている事柄にすぎないとみなしている。 けれどもこの時期に日本社会を覆った「不安」は、そんなに底の浅いものではない。
「不安」とは、「情報がどのように不完全であるのか、合理性にどのような限定があるのかを知らない」という「不確実性」が社会を覆ったときに、人を襲う心理状態である。 つまり、確率分布さえ想定できないような状況である。

不確実性の高まりを予備的貯蓄の増加につなげる議論は、「貯蓄の目的」として人々が答えたことのうち、「病気や不時の災害への備え」「老後の生活資金」、そして「とくに目的はないが、貯蓄していれば安心」を「予備的貯蓄」だとしている。 だがこの調査は、むしろ90年代後半の貯蓄の増加が、「起きることの確率があらかじめ分かっている」状態で将来に向けて予備的に行ったものではないことを示している。
というのも、「病気や不時の災害への備え」は、癌や交通事故、震災での死亡率の平均値が分かっているから予備的貯蓄に当たるが、それは1980年の79.1%から、90年代には70%前後に下がっている。

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